Smoker side S
ハイネの部屋から戻る途中、アスランは自分を探していたと言うシンに飛びつかれた。
ここのところ、しょっちゅう部屋に押し込まれ、押し倒されている。
アスランも満更でもないから、恋人、というのかもしれない。
「・・・・アスランさん」
「なんだ？」
子供は体温が高くて気持ちがいい。
アスランが、シンの好きなところのひとつだ。
「なんかいつもと違う匂いしますよ」
くんくんと匂いをかぐシンに、アスランは首を傾げる。
シャワーを浴びてきたから、した後の匂いはしないはずだ。
備え付けのシャンプーもボディーソープも、アスランの部屋と同じものだ。
ああそうか、でも軍服に。
「これ、煙草の匂いじゃないですか？」
「ああ。よくわかったな」
アスランは素直に感心した。
ハイネの部屋に入ってすぐに、服など脱いでしまった。
特に上着は、ベッドから遠いデスクの上に放り出されていたというのに。
シンは、上着の袖に鼻を付けている。すごいな、こいつ。
「アスランさんって、煙草吸いましたっけ？」
「いや、吸わないよ。ヴェステンフルス隊長が吸ってたんだ」
吸ってみたいとは思っていたが、そんな気持ちは今日、さっぱり消えた。
「・・・・・」
何かが気に障ったらしく、シン視線がきつくなる。
こういうときの赤い瞳の強い光が、アスランは意外と好きだった。
話しながらも歩いていると、自然とアスランの部屋へ着き。
当然のような顔をして一緒に部屋へ入ったシンは、ドアが閉まるなりキスを仕掛けた。
「・・・・・んっ」
キスからぜんぶ、アスランが教えた。
飲み込みの良い生徒は大好きだ。
「煙草の味、する・・・」
「お前、煙草吸ったことあるのか？」
「えと、まあ、一応」
少年なら、誰でも一度は試してみるだろう。
不味かったので、シンは本当に試しただけだったけれど。
「ふぅん、そうか」
呟いたアスランは宙を見た。
自分は、もしかしたら。
煙草は、ミゲルに吸わせてもらうものと思い込んでいたのかも知れない。
「アスランさんっ」
傍にいながら、心をどこかに飛ばしてしまったアスランの腕を、焦れたシンが掴んで引いた。
ベッドに押し倒され、再び熱いキスを受ける。
「・・・・・シン」
しかしアスランは、シンの髪を掴んで引き剥がした。
「悪いが、ヴェステンフルス隊長のところでしてきたばかりなんだ。今日はやめてくれないか」
男の体は正直だ。出し尽くしてしまえば、とたんに欲求は消えてしまう。
「そーゆーことは、思っても言わないどいてくださいよっ」
シンは一気に半泣きになった。
「そうか？」
変なところでモラルの欠落した人だとは思っていたが、ここまで酷いとは思わなかった。
シンにいろいろと教えてくれたこの人が、いろいろな男（ひと）を知っているのはわかっていた。議長との関係を、無自覚に匂わされて切れかけたこともあった。
それでも、ここまで露骨なのは初めてで。
悔しくて悲しくて涙が出る。
「もう絶っ対ヤる。アスランさんが何て言ってもヤるっ！」
手始めに煙草の匂いの残る上着を開かせて、上着よりも匂いの強いアンダーに手を掛ける。
「こらシンっ」
止めようとするアスランの手を捉まえて、綺麗な指に吸い付いて。
「他のヤツの匂いなんか、全っ部消してやります！」
そう宣言すると、腕の内側に噛み付いた。
そこにも匂いが染み付いているようで、イライラする。
そんなシンをぽかんと見上げ、そこでやっと、アスランは合点がいった。
独占欲、か。
アスランが繰り返してきたのは、いわゆる大人の関係で。
そんなものを持たれたことはない。
だから気づきもしなかったし、欠片も思い至らなかった。
「っ、くくっ、可愛いな、お前」
唐突に笑い出したアスランに、今度はシンが驚く番だ。
「可愛いって、何ですかそれ」
むくれた顔がまた可愛い。
アスランは、シンの頭をくしゃくしゃと撫でた。
ああ、もしかしたら。
ミゲルやハイネには、自分もこういうふうに見えていたんだろうか。
「だから、何ですかそれって聞いてるんですけど！」
首を振って嫌がっているのも、可愛い。
それともやっぱり、こんなに可愛くはなかったのだろうか。
自分は、こんなにまっすぐではないから。
「・・・・いいよ」
「はい？」
「相手してやる」
撫でていた頭を引き寄せて、とびきりのキスをしてやった。
「今日、お前すごく可愛いから」
「だから可愛いって言わないでくださいよっ」
言いながらも、許可が出たのでシンは再びアスランの服を剥ぎにかかった。
この綺麗な人を、自分だけのものにするために。